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東京地方裁判所 平成8年(ワ)12072号 判決 1997年4月11日

原告

株式会社キングソング

右代表者代表取締役

丹賀富夫

被告

小野耕揮

主文

一  被告は、原告に対し、金一六〇万八二二六円及びこれに対する平成八年六月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金一七四万二四一九円及びこれに対する平成八年六月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、業務用通信カラオケ機器のリース業者である原告が、カラオケ機器をリースしていた被告に対し、未払リース料と規定損害金の支払を求めた事案である。

二  原告(請求原因)

1  原告は、平成六年一二月二七日、被告との間で、通信カラオケ機器一セット(以下「本件物件」という)について、次の約定によりリース契約(以下「本件契約」という)を締結し、平成七年一月九日、これを引き渡した。

(一) リース期間

平成七年一月九日から平成一二年一月八日まで六〇か月

(二) リース料金

一か月六万五〇〇〇円を、当月九日から翌月八日までの分を翌月二三日限り支払う。

(三) 契約解除

被告がリース料の支払を怠ったときは、原告は、事前に被告に対する通告を要せず、本件契約を解除することができる。

(四) 規定損害金

被告が本件契約上の債務を履行しなかった場合、被告は、原告に対し、経過期間がリース期間の三分の一(二〇か月分)未満のときには、リース料の一五か月分を損害金として支払う。

2  被告は、平成七年二月支払分のリース料の支払を期日までにしなかった。

3  被告は、その後、原告に対し、平成七年三月一三日に同年二月支払分を、同年五月一〇日に同年三月支払分及び同年六月六日に同年四月支払分をそれぞれ支払った。

4  原告は、平成八年四月三日、本件物件を被告の店舗から引き上げ、同日、被告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をした。

5  よって、原告は、被告に対し、本件契約に基づき、平成七年五月支払分から平成八年三月支払分まで(一一か月分)及び同年三月九日から本件契約を解除した日の前日である同年四月二日まで(同年四月支払分。ただし、二五日分の日割計算)までの未払リース料七六万七四一九円と規定損害金九七万五〇〇〇円の合計一七四万二四一九円並びにこれに対する支払命令送達の日の翌日である平成八年六月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告

1  被告が原告から本件物件の引渡しを受けたことは認めるが、そのリースについて原告主張のような約定をもってリース契約を締結したことはない。

本件契約書(甲一の一及び二)の借主欄の被告の氏名、住所等は、原告の営業担当者の酒井が偽造したものであって、被告はその作成に関与していない。

2  また、本件契約期間中に、原告がカラオケ情報の配信を停止したため、被告は、本件物件を使用できなくなった。したがって、被告は、その期間中リース料を支払う義務を負わない。

なお、原告が平成八年四月三日に本件物件を引き上げたことは認める。

3  被告は、前記酒井を通じ、平成七年三月一三日、同月三〇日、同年四月二八日、同年五月三一日、同年六月二九日、同年七月三一日及び同年八月六日の合計七回にわたり、原告に対し、次の各日にリース料としてそれぞれ六万五〇〇〇円を支払った。

四  争点

1  被告が規定損害金に関する約定を含め本件契約内容を合意したか否か。

2  カラオケ情報の配信を停止した場合にその期間中のリース料を請求できるか。

3  被告のリース料支払の回数と支払総額

第三  当裁判所の判断

一  規定損害金に関する約定を含む本件契約の成立について(争点1)

1  証拠(<省略>)及び弁論の全趣旨によれば、本件物件のリースに関しては、原告の営業担当者の酒井が被告に勧誘、交渉をしたこと、酒井は、原告に入社する前は別のカラケオ機器の取扱会社に在籍していたが、そのころから、被告とのカラオケ機器の取引があったこと、被告は、平成六年の末ころ、酒井から、原告のカラオケ機器のリースを勧誘されてこれを承諾し、酒井に契約締結手続を任せたこと、酒井は、これを受けて、平成六年一二月二七日ころ、被告に代わり本件契約書(<書証番号省略>)を作成したほか、平成七年一月一八日ころ、被告から聞いた被告名義の銀行口座において右リース料の口座振替えのための申込書(<書証番号省略>)を作成したこと、原告は、同月初めころ、被告に対し、契約締結意思の確認のため、酒井が持ち帰った本件契約書の写しを送付し、被告はこれを受領したこと、そして、被告は、そうした経緯の中で、同月九日に原告から本件物件の引渡しを受けたこと(この事実は争いがない)、以上の事実が認められる。

2  右事実によれば、被告は、平成六年一二月二七日ころ、原告との間で、本件物件について、請求原因1のとおり、本件契約書(<書証番号省略>)に基づくリース契約を締結したものと認められる。

3  被告は、被告が本件契約書の作成に関与しておらず、規定損害金に関する合意はしていないと主張するが、前記認定のとおり、被告は、本件物件のリースを受けるについて、契約書の作成を酒井に任せていたのであるから、被告の意思に基づいて契約書が作成されたものということができるし、また、その後、被告は、原告から送付された契約書の写しを受領した後も、原告に対し、契約書を作成していない旨の苦情や契約内容に関する異議を述べることなく、本件物件の使用を継続していたのであるから、被告が規定損害金に関する約定を含め、本件契約の内容を了承していたことは明らかであって、被告の右主張は採用できない。

4  なお、被告は、酒井から、三か月前に申し出れば本件契約の解約ができる旨聞かされていたと主張する。しかし、被告本人の供述以外に右主張事実を認めるに足りる的確な証拠はないし、仮に酒井がそのような発言をしたことがあったとしても、一営業社員に過ぎない酒井の右発言が本件契約における規定損害金の定めを排除する趣旨のものとは考え難い。そして、被告は、後記二のとおり、本件リース料の支払を怠り、本件契約に基づく自己の債務を履行しないため、原告によって本件契約を解除されたのであるから、本件において被告の主張する三か月前の解約予告の合意が適用されるような余地は全くない。したがって、原告が規定損害金の定めに基づく請求をすることに支障はないというべきである。

二  カラオケ情報の配信停止とリース料の支払について(争点2)

1  証拠(<省略>)及び弁論の全趣旨によれば、被告がリース料の支払をしないため、原告は、平成八年一月二五日ころ、被告に対し、同月中にリース料の支払がない場合には、カラオケ情報の配信を停止すると告知したこと、これに対し、被告がそれでもかまわないと述べたため、原告は、同月三一日限り、被告に対するカラオケ情報の配信を停止したこと及びその後、被告が本件物件を使用したとき、希望する曲が出て来なかったため、本件物件を使用しなくなったこと、原告は、同月四月三日、本件物件を被告の店舗から引き上げ、本件契約を解除したことが認められる。

右事実によれば、平成八年二月一日から原告が本件物件を引き上げて本件契約を解除した同年四月三日までの間、被告は、本件物件を完全な状態で使用することができなかったことが認められる。

そうすると、右の期間中、原告は、本件契約に基づく被告の本件物件の十全な使用を妨げていたということができるから、被告に対し、右期間中のリース料の支払を求めることはできないというべきである。

2  この点、原告は、本件物件のカラオケ機器本体内には、最近使用された三〇〇〇曲が記憶されるようになっているため、これを使用する場合は、電話回線による配信を受ける必要がないため、原告によるカラオケ情報の配信停止後も右三〇〇〇曲の使用ができると主張する。

しかし、本件契約は、通信カラオケ機器のリースを目的とするものであり、本件契約上、リース料の不払に対する制裁としてカラオケ情報の配信を停止できるとする条項は存在せず、また、被告との間で右停止期間中においてもリース料の支払を求めることができる旨の合意が成立した事実も認められない(前記認定事実中、被告が原告から配信停止を警告された際にこれを承諾した点をもってしても、右の合意をしたものと認めるには足りない)から、原告の右主張は採用できない。

3  よって、原告が被告に対して請求できるリース料は、平成八年一月末日までの分というべきである。

三  被告がリース料を支払った回数について(争点3)

1  被告が平成七年三月一三日に酒井を通じて原告に対して六万五〇〇〇円を支払ったことは、当事者間に争いがない。

また、原告は、支払を受けた日には相違があるものの、被告から合計三回にわたって六万五〇〇〇円ずつの支払を受けたこと自体は認めているところ、この事実と証拠(<省略>)を総合すれば、被告は、酒井に対し、平成七年三月三〇日及び同年四月二八日に、本件リース料として、それぞれ六万五〇〇〇円を交付したこと及び酒井が、同年五月一〇日及び同年六月六日に、原告に対し、これらの金員を入金したことを認めることができる。そうすると、被告は、本件リース料のうち、平成七年二月支払分ないし同年四月支払分までの三か月分を支払ったものということができる。

2  次に、被告は、右三回分の支払を含め、合計七回にわたり、それぞれ六万五〇〇〇円を酒井に支払ったと主張し、本人尋問においても同様の供述をする。

しかし、右三回分の支払については、原告作成名義の領収証が存在するものの、それ以外の支払についてはこれを証する領収書等の書面がないことは、被告においても自認するところである。この点について、被告は、酒井が後で交付すると言ったので右支払時にはもらわなかったと主張するが、被告が領収書の交付を要求しながら、これを受領しないままに四回にわたり支払を続けたというのは不自然である。また、被告は、本件訴訟提起前における原告との交渉においては、被告が平成七年五月以降に酒井に支払った回数は三回である旨言明しており(<証拠省略>)、本件訴訟において初めて、右回数が四回であり、そのことを失念していたと述べたものである。しかし、原告からの請求が始まったのは、被告の主張する最終支払日(平成七年八月六日)から間もない同月ないしその翌月のことで(<証拠省略>)、その後も原告が被告に対して繰り返しリース料の支払を請求しているにもかかわらず、その間、被告は、右支払回数は三回であると主張し続けていたということになるばかりか、本件訴訟提起後になって、右回数に関する主張を四回と改めているのは、極めて不合理といわざるを得ない。したがって、被告の前記主張及び供述は採用できない。

3  よって、被告が支払ったと認められるリース料は、前記1の三回分にとどまるというべきである。

四  結論

以上によれば、原告の請求は、平成七年五月支払分から平成八年一月支払分まで(九か月分)及び平成八年一月九日から同月末日まで(二三日分の日割計算)の未払リース料六三万三二二六円並びに規定損害金九七万五〇〇〇円の合計一六〇万八二二六円及びこれに対する履行期の後である平成八年六月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官相良朋紀 裁判官安浪亮介 裁判官小野寺真也)

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